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Mizuho RT EXPRESS

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介入警戒の賞味期限に焦点

─ 米利下げまで介入警戒続かなければ円は一段安 ─

2024年4月19日

調査部 総括・市場調査チーム エコノミスト 東深澤武史
takeshi.higashifukasawa@mizuho-rt.co.jp

ドル円は1ドル=154円台に上昇、約34年ぶりの円安水準に

ドル円は1ドル=154円台に上昇。約34年ぶりの円安水準を更新し続けている。米金利上昇や、投機筋の円売りポジションの増加(図表1)、活発な円キャリー取引等がドル高に寄与したとみられる。1ドル=152円台まで円安が進行すれば、本邦財務省は為替介入に踏み切るとの見方があったものの、実際には介入が実施されなかったことで、円安が加速する場面もみられた。

米金利上昇が継続している背景には、米景気が総じて底堅いなかで、米利下げ観測が後退していることがあげられる。4/5に公表された米3月雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比+30.3万人と市場予想(同+20万人)を上振れたほか、失業率は3.8%と市場予想(3.9%)を下振れ、労働市場の底堅さを示唆する結果となった。4/10公表の米3月消費者物価指数(CPI)では、コアCPIが前月比+0.4%と、市場予想(+0.3%)を上回り、物価目標到達までのラストワンマイルが依然道半ばであることが示された(図表2)。その後に公表された米3月小売売上高では、個人消費の堅調さが継続していることが示唆され、アトランタ連銀のGDP Now(4/17時点)では、2024年1-3月期の米実質GDP成長率は前期比年率+2.9%と、潜在成長率を上回る高い成長が見込まれている。そうしたもとで、米連邦準備制度理事会(FRB)の2024年の利下げ回数について、市場は3月下旬時点で3回程度と見込んでいたものの、4/18時点では1~2回程度との見方が優勢となっている。

図表1 ドル円と投機筋の動向

(注)IMM円ポジションのマイナス幅が大きいほど円売り圧力が大きい
(出所)LSEGより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2 米国のエコノミックサプライズ指数とインフレーションサプライズ指数

(注)米国の経済・物価指標の市場予想との乖離度合いを指数化した指標
(出所)LSEGより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

為替介入に対する警戒度合いは一段と高まる

日本時間4/18の日米韓財務大臣会合で、円安・ウォン安について「深刻な懸念を認識する」との文言が共同声明に盛り込まれたことで、本邦財務省が為替介入に踏み切るとの見方が強まり、ドル円は円高方向で反応した。従来、財務省高官は、為替相場に警戒感を示しつつも、すぐに介入に踏み切るといった強硬姿勢はみられなかった(図表3)が、こうしたスタンスが変化する可能性がある。

今後、当局者発言から介入実施の本気度合いに引き続き注目が集まると同時に、実際に介入に踏み切る場合は、韓国との協調介入が実現するかにも焦点が集まろう。日本が単独で円買い・ドル売り介入を実施するより、韓国も同時にウォン買い・ドル売り介入をする方が、円高・ウォン高効果が高いとみられるためだ。

為替介入の実施是非にあたっては、①投機筋の動向、②為替の変動幅、③為替の水準等、様々なデータを考慮しているとみられるが、これらの項目について、介入実施の要件を満たしていると財務省が判断しても不思議ではない。①については、投機筋による円売りポジションが急増し、ネットベースでみれば、2007年以来の高水準に到達している。②については、2022年の介入時は、直近安値から+8.2%の水準で為替介入に踏み切った。直近2023年12月安値+8.2%水準は1ドル=152円~153円程度(図表4)であり、この水準を超えて円安が進行している。③については、1ドル=155円の水準は、輸入企業の為替予約の「ノックアウト・ポイント」にあたるとの見方が多い。ノックアウト・ポイントに到達すると、輸入企業のドル買いの権利が消失してしまうため、その企業は新たに為替予約を締結するか、スポットでドル買いをするなどして、新たにドルを調達する必要がある。いずれにしても、円安圧力が強まることとなる。また、心理的節目となる1ドル=155円の水準を超えれば、投機筋が円売りを強める可能性もある。実際、ドル円のインプライドボラティリティは、介入警戒ラインと目されていた1ドル=152円を超えたタイミングで比較的大きく上昇(図表5)した。円安に一段と拍車がかかるリスクがあることを踏まえれば、財務省が1ドル=155円を防衛ラインとしている可能性は否定できない。

図表3 当局者の発言と警戒度合い

(出所)各種報道より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表4 ドル円と為替介入

(注)オレンジ線は為替介入のタイミング
赤丸の安値から高値に達する日数 と上昇率を示している
(出所)財務省、LSEGより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

米利下げ観測が高まるまで介入警戒感が強い状態が続かなれば、一段の円安も

目先、ドル円は高止まりする可能性が高く、米利下げ観測が高まるまで為替介入への警戒感が強い状態が続かなければ、短期的には一段の円安が進展するリスクがある。

為替介入が実施された場合、短期的には円高方向に作用するとみられるが、これまでの円安・ドル高トレンドが反転する見込みは薄い。ファンダメンタルズを鑑みれば、日米の景況格差や金融政策動向を反映して、日米金利差は拡大している。また、ドルは対円のみならず、対主要通貨で上昇しており(図表6)、高金利の長期化が意識されたドル高主導の相場となっている。為替介入のような政策対応は、あくまで、一方的にドル高が進まないようにするための「時間稼ぎ」であり、円高・ドル安基調に転じるには、米景気減速やインフレ鈍化を背景として、米利下げ観測が高まる必要があるだろう。

みずほリサーチ&テクノロジーズ(2024)では、2024年央以降、米国のインフレ鈍化が進展するなかで、FRBは緩やかな利下げサイクルに入り、徐々に円高・ドル安基調に転じるとみている。ただし、米利下げ観測が高まる前に、①為替介入に踏み切らない、②為替介入を実施しても円高圧力が限定的、③為替介入を継続的に行い、外貨準備高の減少が意識される等、介入警戒感でドル高が抑制できない場合、短期的には1ドル=155円を上抜けてドル高が進展する可能性があろう。

図表5 ドル円のインプライドボラティリティ

(注)インプライドボラティリティは3ヵ月
(出所)LSEGより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表6 主要通貨の対ドル騰落率

(出所)LSEGより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

[参考文献]

みずほリサーチ&テクノロジーズ(2024)「2024年度・2025年度 内外経済見通し ~世界経済はソフトランディングもその後の回復ペースは緩慢でリスクは残存」、2024年2月27日

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